85歳 いまさら入れ歯なんて絶対イヤ!
「自分の歯と全く同じかと言われると、完全に同じとは言わないけれど、何の遜色もなく何でも噛めるようになったし、非常に満足しています。」
治療を終えてNさんから頂いた言葉です。
Nさんは、治療終了時85歳とご高齢でした。
これまで歯で困ったことはなかったのですが、数年前から歯がぐらぐら動くようになってきました。
Nさんはこれまで、歯の揺れてきたところは治らないのでそのままにするしか仕方がないと聞いていました。
これまで歯は丈夫であったのにとても残念に思い、かつての健康な歯を諦めきれずにいました。
そこでNさんは何とかしてほしい。と永井歯科に来院されました。
65歳を超えると、大きな治療はこれで最後にして、人生最後まで走り切れる治療が求められます。
それは健康保険で入れ歯を作る、健康保険で一部分に被せものをする、虫歯を詰めると言ったこととは内容が全く異なります。
きちんと歯周病治療を行い、1本1本の歯の治療を行うこともありますが、重要なのは咬み合わせです。
健康保険の部分入れ歯を入れてから歯が次第にぐらぐらになり、入れ歯の修理と作り替えを繰り返している方の数は少なくありません。
歯の本数が年々減っていく方は、全体の咬み合わせを考えないで詰め物、被せものや入れ歯の治療をしてきたからなのかもしれません。一度咬み合わせを専門的に見ている医療機関を受診することをお勧めします。当院では先々まで長持ちする咬み合わせを大切に考えて治療を行うよう心がけています。
Nさんの話に戻ります。
いろいろお調べしたところ、上顎が全体にわたって重度の歯周病であることが分かりました。
上顎の前歯が伸びて長くなっていますし、全体の噛み合わせも低くなっているようです。
顎を素直に閉じた時も一部分の歯ばかりが当たっていました。横に歯を動かす際にも特定の部分が、がつがつと大きな力がかかっていました。咬み合わせのバランスが乱れています。
治療としては
1:歯周病の治療を行い残せる歯、残せない歯を判断します。
2:上顎を全体として治療し、歯列全体が上下で均等に当たるようし噛み合わせのバランスを整えます。
この2つが求められます。
1の歯周病に関しては患者さんの努力もあり2か月で治りました。
炎症もほとんどなくなり、歯周病菌の悪玉菌であるP.g菌の数も正常な数値になりました。
2の咬み合わせに関してはいくつか方法がありますが、上の歯だけを治せば大丈夫です。
イ.上顎の残せる歯を残して総入れ歯に準じた入れ歯であるレジリエンツテレスコープ
ロ.インプラントを使ったブリッジ
患者さんは、これまでの人生は歯で困っていなかったのに、入れ歯は嫌である。
とのことでしたので、インプラントのブリッジを選択されました。
歯周治療を終えると、上顎になんとか残せそうな歯もありました。残せる歯があるならば、本来はその歯を使ってブリッジをしたいところです。とはいえ歯周病で歯を支える骨は少なくなっているので弱い歯です。この残った歯だけでブリッジをしたのでは強度が足りず短期間でぐらぐらになってしまいます。
通常こういう場合のブリッジは、上の歯を残したいところですがかなり弱い歯なので全て抜いてインプラント4〜7本のブリッジをする方が中長期で見て手堅い治療方になると思います。
しかし今回のNさんには、上の残せそうな歯を活用し、2本のインプラントを補助的に追加することでブリッジの治療を行いました。
若ければ長期間の安定が求められるのでw4~7本のインプラントが必要になりますが、Nさんは高齢者で余命が限られることから、インプラントは2本で大丈夫であると判断しました。
インプラントの本数を減らすと高齢者への体への負担を軽減する効果があります。
今回のブリッジは、ドイツ式入れ歯のなかでも、コーヌステレスコープブリッジとよばれる被せものになります。
特徴として
・歯とインプラントの上に1ピースのブリッジを装着します。
・入れ歯のバネがないので、見た目が綺麗で人に気付かれません。
・このブリッジは自分で簡単に着け外しが出来ます。
・ブリッジを外すと、単純な被せものなので一般的なブリッジより遥かに歯磨きが簡単です。
・万一壊れても外せるので修理が簡単に行えます。
デメリットとしては少し費用がかさむ点です。
しかし万一問題が起きた際修理が簡単にできるので、長く大事にお使いいただくことが出来ます。再治療に大きな出費がかからない点は反対にメリットとなり得ます。
インプラント手術では、コンピューター上でインプラントを植える位置をシュミレーションし、その通りの場所にインプラントを短時間で入れる技術があります。
これはコンピューターガイデッドサージェリーと呼びます。
Nさんにもこの方法を使い治療を行いました。
手術の日には歯科麻酔医が立ち合い全身管理を行い点滴でうたた寝の状態を作り治療を行っています。
40分間寝ている間に歯肉に小さな穴だけを開けて2本のインプラントを入れ終えています。
翌日も体の負担がほとんど残らなかったそうです。
治療の期間、咬めなくては困ります。治療の全期間を通して仮歯を使って生活してもらいました。
この仮歯はNさんにとても好評で、以前よりも快適に咬めていました。
治療を終えてNさんは「あの仮歯で治療をおえても良かったです。」笑。と冗談をおっしゃっていました。
実は日本でコーヌステレスコープ入れ歯を扱っている歯科医院は少数です。その理由は日本の歯科大学ではコーヌステレスコープ入れ歯を習得できないからです。日本の歯科大学で部分入れ歯といえば、留め金式のクラスプ入れ歯の技術が習得されるからでます。健康保険の部分入れ歯も留め金式のクラスプ入れ歯が扱われているからです。医療の先進国ドイツでは留め金式のクラスプ入れ歯は、現在では扱われていません。クラスプを掛けた歯に栓抜きのような力がどうしてもかかることで、歯を失い易いと考えられているからです。
ドイツ チュービンゲン大学で留め金式の入れ歯が使われなくなったのは1967年と今から50年以上前のことです。
日本で50年前と言えば、1961年の国民皆保険制度の完全化です。この時からすべての国民が健康保険の歯科医療を受けられるようになり、留め金式のクラスプ入れ歯は誰でも手軽に出来るようになっています。
日本の健康保険では歯科用インプラントもできません。顎の腫瘍などでごく限られた条件を満たす方にだけ保険適応されています。
インプラントとドイツ式入れ歯であるテレスコープ入れ歯を組み合わせた治療は、日本では極わずかな歯科医院でのみ取り扱われています。
全ては患者様の笑顔のために
治療について詳しくは下記リンクよりご覧ください。
■治療期間と費用
・期間 9カ月(歯周病治療期間2か月を含む)
・治療費 インプラント体1本25万円〜(税別)
コーヌス支台1本15万~(税悦)
ドイツ式コーヌスブリッジ150万円~(税別)
■リスクと副作用
天然歯は日常の清掃やメインテナンスを怠ると虫歯や歯周病になることがあります。
インプラントも日常の清掃やメインテナンスを怠ると、天然歯の歯周炎のようにインプラント周囲炎が起こります。神経の治療をしている歯は治療後に歯の根が折れて抜歯になることがあります。